私の家では何も起こらない

私の家では何も起こらない

文学賞メッタ斬りで、豊﨑由美さんが絶賛されているのを読んで、六番目の小夜子を読んでから、
はまってしまった恩田陸さんの本。

多作なのにどれもはずれなしの高水準。

彼女の本はまさに読書好きのためにある気がします。
ミステリーのように話の先を知りたくて夢中になって本を手繰る楽しみとは
ちと違い、本の中の世界に浸る楽しみに酔う感じ。

しかしながら、その世界はそんなにきれいな世界ではなく
ひたひたと忍び寄るおそろしさ、です。
どちらかといえばおどろおどろしい。

この本もその例にもれません。
作内の大工が幽霊を前にしながら「生きてる人間のほうがこわい」ともらします。
大工は、格段深刻に言ってるわけではなく、軽妙にそういった感想をつぶやく
わけですが、本当にそうだよね、とこちらもなんだかつぶやきたくなります。

こんな奇妙で不気味な世界より、生きてる人間のほうが怖いとは
なんたることか、と思いますが、その裏返しとして
素晴らしきかな、人生、といいたくなる瞬間も多くあるから
人生面白い。

そんな思いも馳せられる、不思議な本、です

今日のBGM

24/7(DJ KAORI{Big Dawg}Remix)
Luv and Soul



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君たちはどう生きるか

君たちはどう生きるか

言わずと知れた、いまや古典ともいえそうなこの1冊。
平成の終わりにまさかの大ヒット。この本を書店の平積みから発見することがあるなんて
想像だにしてませんでした。

中学・高校のころ、何度「推薦の本」として眼にしたでしょう。
ちらっと冒頭を読んでみたことはあったものの、なんだか説教くささと、古臭さを
感じてしまってから、結局読まずじまいで終わっていましたが
今にいたるまで売れ続けているのであるならば、きっと何かがあるに違いない。
読まないのももったいないかもしれない。
そう思って読んでみることとしました。

結論から言うと、確かに少年少女向けに書かれているものですが
少なくとも私にとっては、大人になってからの今、読んでよかったな
と思いました。
当たり前のことを簡単に書く、また、深い教養をさらけ出しすぎずに
大事な要素だけをかいつまんで書く深さは、10代のころの私には
感じ取れなかっただろうと思います。

一方で、先生受けする感想文を、ちょっと頭のよい子なら書きやすい本ではあります。
でも、それこそ感想文コンクールでそこそこの賞を受賞するような感想文を
さらさらと書けちゃう子にはこの本の深さは実は理解できていないんじゃないかな
と思います。わかりはするけど感想と言われても困ってしまう、と感じる子のほうが
実はこの本をよく理解している子なのではという気が、ひねくれものの私などはしてしまいます。

なおこの本には古今東西起こりえるちょっとした小競り合いがエピソードとして書かれており、そこに対しての
先生や、保護者の立ち居振る舞いも書かれています。あくまでそれは、エピソードの一要素でしかないわけなのですが
今時の大人は、同じような出来事に対して、どうするだろうか?
本当にしかるべきことはどこかを見失い、わかりやすくだめなこと、つまり暴力をふるう、とか
ものをこわすとか、そういった表面的なことしか叱らないし、叱れないのではないか。
そんな気もしました。

今この本が売れているということに読み始める前は不思議な気がしましたが、
読み終わってみてからは
むしろ、この時代に80年もの前に書かれたこの本が
売れていることに安堵感を覚えました。
きっかけはなんであれ、まだまだ世の中、まっとうかもしれません。

今日のBGM
(Love Is) The Tender Trap
Frank Sinatra

私を離さないで

私を離さないで
ノーベル文学賞を受賞してから、早川書房は大変な増刷に追われたそうですが
どこの本屋さんでもカズオイシグロさんの本が平積みされています。
多くの人々が受賞をきっかけにはじめて手にされたことと思いますが、私もその一人。
本屋で見かけたときに、恐る恐る読み進めてみたら

なんだこれ、え?なにこれ。
まったくなんのことを言ってるのやらわからない、のに
なんだかどんどん引き込まれるこの世界観。
翻訳ものだから、実際の文体がどんなものかは正確には
わからないわけですが、それでも、きっと、英語の原文も
静謐で、淡白で、それでいて冷徹なんだろうことが想像されます。
文体は静かで、語られている世界も一見静かで、どうということのない世界の
ように「みえる」のに、なんだか恐ろしいことが始まる予感がひしひしと
小説の初めから感じられます

なぞときがわかった結末において、もちろん、これが架空の世界であることは
読者にもすぐわかるわけですが、架空だがありえそうで、
読み終わった後、いろんな思いにふけることができました。

解説を読むにそのほかの作品もなかなか読みごたえがありそうです。
また、どの作品も常に新たな挑戦をされている模様。
外国の作品は、原文で読むには語学力が足りず、
翻訳で読むにはその翻訳文体になじめずに
つい、読まず嫌いになることが多いのですが、こちらの本の翻訳は
実にすばらしい。

決してすがすがしい本ではないのに、読んでよかった、と心から思える稀有な一冊です

今日のBGM
You crack me up
Huey Lewis and The News

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その日の前に

その日の前に

その日とは何かを、説明してしまうとこの小説のネタばれ、になるのですが
その日を突然に、あるいは覚悟のうえで、迎えた人たちが家族と、友人と
あるいは久々に再開する昔の仲間と紡ぎだす短編集です。

あとがきを読むと、最初は読み切り、の短編だったものをモチーフに少しずつ広がって
気が付けば短編同士、不思議な縁でつながっていることが明らかになっていきます。
都会の中で、つながりなんてなさそうで、実はこの小説のように知らぬうちにつながって
縁(えにし)をつむいでいるものなのかもしれないですね。

悲しい結末を描いている物語が多いのに、なぜかあたたかい気持ちで包まれて
気持ち良い涙が流せるそんな重松さんらしい小説です

今日のBGM
Le monde tourne sans toi
Anne Sera

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深い河



いい小説とは、面白くも余韻が残る小説、なんじゃないか、と最近思います。
もちろん、面白いだけの小説も世には必要なのだけど、たまにはそれだけで終わらない本を読みたいじゃないですか。
この本はまさにそんな本の一冊です。

インドツアーに参加する面々の人生観を通じた死生観、さらに信仰に対する思いが、ばらばらのモチーフながら気がつけば、きってもきれないつながりとなりひとつの小説になっていく様に、ただただ読者はずるずるひかれてくわけですが、ストーリーを追いながら、この小説同様の繋がってるような繋がってないような、不思議な感覚に襲われます。

小説に出てくる登場人物は、自分とは似ても似つかぬ人物であるにもかかわらず、自分の中にある多面性を覗き見られたような奇妙な感覚に襲われます。小説終盤に出てくる「滑らかな口先だけの、ポンチのような味のする結婚式の青年」の詭弁性、ツアーに参加する人物たちの(あそこまで深くはないまでも)心の闇、ツアーの中では浮いており問題視されているが、おそらく日本人の大多数があてはまる三條夫婦の俗っぽさ。どれも心の中に澱のように溜まって、小説を読むに従ってずしんと響いていきます。

なお、この小説を10代、20代の頃の私が読んだならおそらくはモヤモヤとした気持ち悪さしか感じないと思います。結論があるわけでもなく、わかりやすくもなく、誰も幸せにも不幸にも(おそらくら大津でさえ、不幸ではない)ならない結末は受け入れがたいものと思います。
今ならだからこそ、考えも深まるし、小説内にもジワリジワリ触れられているように、難解なテーマほど、1つに決め切ることもできず複数の見方ができるものなのでは、という考えに頷け、また小説を読んだ先を読者に委ねられた小説のあり方に共感できるし、感謝できるのだと思います。

とはいえ。
私は旅行が好きで暇ができればどこに旅するか常に考えるたちですが、インドに行くことだけは恐ろしい。おそらくどこの国にもない深い感慨が得られることはよく理解しつつも、心も体もやわに生きてしまった私に、あの国はハードルが高すぎます。

今日のBGM
月の光(ドビュッシー)
Monique Haas




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